うさびさんのサブストーリー

【GODDESS〜いつか出会う物語〜】

 

「prologue」 第1章 第2章 第3章 第4章
第5章 第6章<New> 第7章<New>    

 

「第5章」

それからの日々はうさびにとってめまぐるしい毎日だった。
ギルドマークが頭上に付き、ギルドチャットが利用できる。
そこで交わされる挨拶や雑談。
街を歩いていても「かわい〜♪」「にゃんこにゃんこ!」
そう知らない人からも声をかけられる。
始めは恥かしくて返せなかったが、最近は
笑顔で返せるようになっていた。
頑なだったうさびの心を解きほぐしていく。
何もかもが新鮮で、素晴らしい毎日だった。
サイエフでの狩りも段々と慣れて来ていた。
一人では絶対に狩れないグリフォンやトロル・ミノタウロスなども
みんなと一緒なら怖くはなかった。
毎週行われる集会で何人かが入ってくる。
その日の集会ではSibamuraとニャンキーが加わった。
Sibamuraはオクタの知り合いであった。
「うさびさん、Sibamuraは僕の知り合いなんです。どうかよろしく」
オクタがSibamuraをうさびの前に連れてきて言った。
「どうもはじめまして。Sibamuraです」
黒髪のストレートの髪。すっぱりと切りそろえられた髪が
彼の性格を表しているようだった。
「そっか。じゃさ、しばっちって呼んでいい?」
うさびが何気なく言うと傍にいたオクタが
”プッ”と吹き出す。よほどおかしかったらしい。
Sibamuraは「お好きなように」とだけ告げた。
「この後、うさびさんはどうします?サイエフ行きませんか」
Sibamuraがうさびに尋ねた。
「ん、どうしようかな。シュカは?」
「ああ、俺は行くよ。そういえば、Sibamura。剣の技能は?」
「先日Lv7の称号を受けました」
「・・・・低いな」
シュカがお気に入りのパタを磨きながら、こちらへとフイと目線を流して
またパタを磨き上げる。
そんなこといわなくてもいいのに;などと思いながらうさびはクレイモアを腰に
装備した。
「さて、行こうか。Sibamura、うさび」
シュカの一声を先頭に何人かが連れ立つ。
「僕もご一緒させていただいていいですか?」
赤髪が印象的な青年、スウェインが席を立つ。
「うぃ」
シュカが答えた。

サイエフに着くと、いつもの定位置で狩りを始める。
グリフォンなどは一撃が恐ろしいが、4人で囲んでしまえば
攻撃は分散され、一人が受けるダメージが減る。
そのためのパーティ狩りだ。
ギルドチャットで「これからサイエフいきます」
そう言えば、何人かが集まる。
今日は、遅れて明影・ラムネード・サラ☆・エイニスが加わる予定だ。

来た!!
急に背筋に緊張が走る。
グリフォンが風を切って急降下してくる。
1番に狙われたのはうさびだった。
肌にグリフォンの爪が突き刺さる。赤い鮮血がじわりとにじんだ。
「早く囲んで!;;」
つい、恐ろしさから叫ぶ。
スウェインがすぐにグリフォンへ、うさびと応戦する。
「すまん、遅れた」
まだパーティ狩りに慣れていないSibamuraがファルシオンを持って
グリフォンを取り囲む。
シュカは少し離れてその様子を眺めていた。
何匹目かのグリフォンと戦っていたときだった。
ザシュッ・・・・。
鈍い音が響く。クリティカルと呼ばれる大打撃だ。
「誰!?」
自分ではない。ならば、スウェインかSibamuraのはず・・・・。
うさびは周りを見渡した。
クリティカルを受けたのはSibamuraだった。
Sibamuraがゆっくりと倒れこんで行く。
「ああっっっ;;しばっち!!」
うさびが叫んだ。
傍で見ていたシュカがすっと近寄るとSibamuraへと復活の薬を使う。
Sibamuraは意識を取り戻したが、何があったのか
まだわかっていないような表情だった
「大丈夫か」
シュカが一人でグリフォンからの攻撃を受けながらSibamuraに聞いた。
そしてゆっくりと深呼吸。
暴れ続けるグリフォンへとご自慢のパタで応戦する。
そして、グリフォンは静かに息絶えた。
「ふぅ・・・」
シュカがうさびとスウェインへと向き直る。
「大丈夫か?」
「あ、はい。ありがとう、大丈夫です^^」
スウェインがふいに笑顔になる。
「うちもだいじょぶ・・・」
その時、Sibamuraが少しよろけながら立ちあがった。
「・・・・・感謝を。」
「うぃ」
いつも無口なシュカの一言。
だが、それはなんとなく安心できる一言でもあった。

「あ、うちそろそろ抜けるね」
「どうしました?」
スウェインが心配そうにうさびに尋ねる。
「あ、うん。クレイモアの耐久が切れそう。ついでにスキル上げに
パゴールまで行ってくる」
「あ、そうですか。僕も鍛冶屋ですが、何もできずにすみません。
でもいつか、鍛冶屋としてちゃんとできるようになったら
何かプレゼントさせてくださいね」
「あいw楽しみにしておきます♪じゃ、いってきます」
Sibamuraとシュカにも別れを告げ、立ち去ろうとした時
向こうから歩いてきたのはチヨだった。
「あれ〜〜〜?うさびちゃ、抜けちゃうの?」
「うん、耐久切れそうw」
「なぁ〜んだ、そっかぁ。今度は一緒にやろね!」
チヨがメイスをブンブン振りながら笑顔になる。
とてもあどけない笑顔。うさびはその笑顔が好きだった。
「うん^^よろしく♪じゃね!」
「またに〜w」
チヨが加わったことで、うさびは安心してその場を離れることが出来た。

中央平原へと道をたどり、ラスランへと入る。
父と母は元気でいるだろうか。
今は裁縫士としてよりも剣闘士としての道を歩んでいる。
そのことを知ったら悲しむだろうか・・・・・。
うさびはできるだけラスランの町を遠回りに歩いてラムパス湿原へと足を向けた。
湿原を抜けてベルク首都パゴールへ入る。
相変わらずの喧騒。
「クラブ・スタッフ・ダガー、安いよ〜」
「ノーマルアーマー売りまーす」
「Sソードありますよ〜〜」
・・・・・・・・・。
色々な声が入り混じる。うさびはその声を聞き流しながら鍛冶屋へと向かった。
「ヒップホップノーマル、600Rでーす」
ふと、その声に足を止める。やすっ♪もう一着欲しいかも・・・・w
声の主へと目を向けると、柔らかな銀髪にローブ姿の青年。
うさびは青年の前に向かった。
「あの・・・」
「はい、なんでしょ?」
「そのヒプって女物ですか?」
青年は少し苦笑いをして、申し訳なさそうに口を開いた。
「男物なんですよ〜〜。ゴメンネ〜」
「あら、残念w」
「俺が作ったんで、男物なんですよ」
「え!君が作ったの?」
「だって俺、裁縫士だから^^」
「・・・・・・・・・・・」
うさびは少しうつむくと、青年にむかって言った。
「がんばってくださいね・・・・・」
「はい^^」
青年の曇りのない笑顔が、うさびの胸を締め付ける。
その場を足早に立ち去ると、城の前で座りこんだ。
”うちも・・・・裁縫士・・・なんだよね・・・”
今更気が付く。自分のスキルをふと思い出してみる。
暗殺10・素手3・回避2・メイス2・修繕3・裁縫4
何が何やらわからないスキルポイント・・・・。
「はぁ・・・・・」
ため息ばかりがこぼれる。何も知らなかったとはいえ、酷すぎるにもほどがある。
パラメーターなどは・・・・。口にもしたくない無残さだ。
「おっし!!今更考えこんでも仕方がないw」
うさびは重い腰を上げると、城の階段を降りていった。
「うおっと!!ごめんよ!」
威勢のいい声と共に駆け出してくる人影。
さっきの青年に似た髪形。しかし、綺麗な栗色の長めの髪だ。
人ごみを相当焦っているのか、かき分けながら走ってくる。
「まだあるかな〜〜〜〜〜〜〜!?;;」
何やら叫びながら走り去る。
うさびは、何気なくその後姿を見送った。

各々の街には”掲示板”と呼ばれる物があり、お互いの連絡方法や
日記・愚痴・発見・驚き。
色々なことが書き綴られている。
うさびはこれに書きこむのが好きだった。何気ない日常。
寂しかったのかもしれない。みんなと一緒にいても、ふとした瞬間に
一人でいるような気になる。
だけど、誰かがそれに気がついてくれるかもしれない。
そして、掲示板を毎日読んでいると何度も同じ名前を目にすることがある。
実際には会っていないのに、なんだか知り合いのように感じることができる。
それもうさびは好きだった。
ふと気になる記事を見つけた。
それは、幾度となく目にしたことがある人の名前で書かれていた。
「惨事のあなたさん・・・・か。どんな人だろう?」
いつも彼の書く文章には楽しみと笑い、驚きと疑問。
それがうまく取り合わせてあり、うさびは密かに楽しみにしていた。
今日も書きこんである。
少しドキドキしながら掲示板の記事を読み始めた。
「あれ・・・?これって・・・・まさかね・・?」
昨日の記憶をたどる。ヒップホップを売っていた青年。
街を慌ててかけ抜けて行った青年。
二つの記憶がゆっくりと合わさっていく。
記事の内容は、惨事さんがヒプ600Rの声を聞いて慌てて銀行で
お金をおろし、かけつけてみたらその方はもういらっしゃらなかった。
そんな内容だった。記事からはとても残念な様子が書かれていた。
タイトルに>冬の弓彦さま  と書かれている。
では、昨日のあの青年がそうだったのだろうか・・・?
そう思いながら過去の記事を読んでいくと
「冬の弓彦」という名前で書かれた記事があった。
少し興味を持って記事に目を通す。
「・・・・・・・・・・・・・何・・・・これ・・・・・」
心の中から不快感と何とも言えない気持ちがこみ上げてくる。
うさびは迷わず掲示板のペンを取った。

>冬の弓彦様

裁縫士だったら改造物を売れ。
裁縫士のプライドはないのか、といわれたそうですね?
とんでもないことだと思います。
現に、惨事のあなたさんのようにあなたの服を
楽しみにされていた方がいます^^
そんな心ない中傷には負けずにこれからも
どうぞがんばってくださいね!

                    うさび

うまく書くことが出来ない。
また、いやな思いをした彼がこの記事に目を通すだろうか・・?
「少しでも・・・・。伝わるといいんだけど・・・・・」
そう思いながら、掲示板を後にした。

 

「第6章」

それから何日かが過ぎた。
うさびは毎日掲示板をチェックしていたが、めぼしい記事もなく
「冬の弓彦」という人物の書きこみもなかった。
「やっぱり、届かなかったかな・・・・。」
心がズキンと痛む。
何か自分にできることはないのだろうか・・・・。
自分の無力さに涙が出そうだった。
たった一人の力では何もできない・・・。そんな気持に囚われそうになる。

穏やかな朝、ふと思い立ちパゴールへと出かけた。
入り口の喧騒が「パゴールに来たんだなぁ・・・」という気分にさせる。
倉庫近くに通りかかった時、懐かしい顔を見かけた。
「・・・・・・・・!」
ふと呼びとめたくなる。
だが、少し怖かった。あれからどれぐらいの時間が過ぎただろうか。
彼は自分をおぼえているだろうか。
そんな不安が頭をよぎる。
近づいてくる足音。それと同時に呼応して心臓が早鐘の様に高鳴った。

「なんや、うさびやないか!?」
不安は一変して喜びへと変わる。
”おひさ^^”
一言いうだけなのに、なぜか言葉が出てこない・・・。
「おーり・・・」
かろうじて出た言葉はこれだけだった。
「変わっとらんなぁ・・・w」
「フンw」
「時間あるか?」
「うん、少しなら・・・」
「んじゃ酒場で待っといてくれるか?お客さん待たせてるんで」
「うん、わかった^^」
うさびは足早に酒場へと向った。
オクタから優しくされてからうさびは涙腺が弱くなったのかもしれない。
それまでは、泣くことなどなかったのに。
最近、涙がこぼれそうになる時にいつも自分に語り掛ける言葉。
”下を向くな。空を仰げ”
そう言い聞かせて。
でも、今日はいいのかもしれない。
うれしい涙だから・・・・。

酒場に入ると手頃な席について、簡単な注文を済ませた。
「おーりにお客さんかぁ・・・・」
もう随分とLvを上げたのだろう。昔のあどけない顔ではなかった。
自信をつけた、そう・・・大人の顔だった。
今の自分はどんな顔をしているのだろうか・・・。
グラスに映った自分を見つめる。
不安と心細さに張り裂けそうに見える。
うさびはギュッをグラスの水滴を手でかき消した。
「待ったか?」
おーりが息を切らせて席についた。
「いあ、だいじょぶ^^」
「元気してたか?」
「うん、そこそこ・・・」
「そかぁ・・・・。まぁ、難しいお小言はやめとくわ。そんでなうさび」
おーりが真剣な表情になる。
「何・・?」
「うさは、裁縫士なんやろ?そんでな、今度バザーするんや。
激安バザー。ノーマルと+1物ばかりやけどな。そんで、一緒にやれる奴捜してた。
うさ、やらんか?気の合う奴としかしたくない。」
「そんな・・・うち、裁縫スキルないに等しいよ・・・」
「そかぁ・・・。残念やな・・・。」
うさびの心がまたズキンと痛んだ。
「ちなみに、今はわしともう一人だけなんや、メンバー」
「そなんだ」
「もう少ししたら来るぞ。一応紹介しとくな。あ、丁度きたわ。」
おーりの目線の先を目でたどったうさびは衝撃を受けた。
「遅れた〜。ごめーん」
そう言って席に着いた青年。
柔らかな銀髪にローブ姿の青年。
「いいんですよー、弓彦さん。わざわざありがとぉ」
おーりが立ちあがって挨拶を済ませる。
うさびは立ちあがれなかった。
「初めまして〜。冬の弓彦ですぅ〜」
「あ、うさびです・・・・」
こんな偶然もあるのだろうか。
「こちらはうさびさん。僕の幼なじみです」
おーりからそう言われてハッと我に返った。
「初めまして^^」
やっと言葉が出る。
「どぉも〜。」
「弓彦さん、うさびさんは裁縫スキルがだめなんだそうです(ノ_・。)」
「あららw」
「ごめんなさい;;」
「いや、ええよー^^無理言って悪かったね^^」
「いあ、すごいことだと思うよ^^激安バザーかぁ・・・」
「偽善者激安バザーとでも名前つけるかw」
「頑張ってね^^うちに何かできることあったら連絡ちょうだいね」
「はいな。そんじゃまたね^^」

うさびは席を立つと図書館へ入った。ここの静けさだとゆっくりとチャリンができ
る。
”シュカ、話があるんだけど”
”うぃ”
”今から裁縫スキル上げてもしょうがないよね?”
”今スキルいくつ?裁縫”
”4・・・・・”
”・・・・・無理だな。何が作りたいの?”
”んとね、マント+1ぐらいまで・・・かな?”
”裁縫スキルが8ぐらいあればなんとかいけるかも・・・・DEXは?”
”DEX・・・・・10”
”・・・・・・・15〜20ないとな・・・・”
”そかぁ・・・・わかった”
”ちょい待ち。どうした?”
うさびはおーりに会った事からすべてをシュカに話した。
”方法はないでもないよ”
”ほんと・・・?”
”ああ、転生の儀式ではなく。分離の儀式をすればなんとかなるかも”
”分離・・?”
”うさびの魂を分離させる”
”そんなことできるの・・・?”
”ああ、できるよ。ただ、Lv1から始めるから時間はかかる。それから
分離している状態ではメインは活動できない。
つまり、うさびを起動することはできないんだ。裁縫だけを上げるキャラを作る。
うさびが本当にやりたいなら協力するよ”
”お願いできる・・・・?”
”うぃ。それじゃ、さっそくするか”
少し緊張が走る。自分にできるだろうか?
だが、どうしてもおーりや弓彦のために何かがしたかった。

シュカに呼び出されたのはパゴール城前だった。
「まず分身に名前をつけるんだ。それから自分がなりたい姿を思い浮かべる」
「うん」
「そして、その後いくつかの質問に答える。パラメータの上げ方の質問がある」
「うん」
「そして、出身地の選択。ラスランにするか?」
「いあ・・・・・。いい・・・。」
「・・・・そうか。それじゃパゴールだな。頑張ってこいよ」
「ん、わかった・・・・」
うさびはログアウトの呪文を唱えた。記憶が遠のいていく・・・・。

真っ暗な闇の中で1つの光りを目指して走り続けた。
目の前がパァッと開ける。そこはガディウスの神の領域。
頭の中に穏やかな声が響く。
”分身に名前を授けなさい”
何も思い浮かばなかった。ふと、先日読んだ小説の女性の名前が思い浮かんだ。
ある国の姫として生まれながら戦闘にたけ、そして最愛の男性へと嫁いだ女性。
”孫尚香で。”
”その名前はすでに使用されています”
残念だったが、その名前を使いたかった。
”では、孫尚香♪で”
”自分のなりたい姿を思い浮かべなさい”
”意志が強く、前向きな女性を”
”自分のパラメータを振り分けなさい”
「DEXは上げたほうがよかったっけ・・・・」
わけもわからないまま、ただDEXを15に上げた。
”故郷はどこに希望するか?”
”ラスラ・・・・いえ、ベルク首都パゴールで・・・”
”貴方の人生が素晴らしい物でありますよう・・・・ガディウス神のご加護を”
その言葉を最後に目の前が真っ暗になる。
ふと気がつくと首都のパゴール城の前に立っていた。

「おかえり」
その言葉に後ろを振り向くとシュカが立っていた。
うさびの姿は黒髪に、後ろに髪を束ねた女性の姿をしていた。
誰にもわかるはずがない。なのに・・・・。
「わかるの・・・?」
「当たり前だろwさぁ、バシバシしごくぞ。」
ふと涙が滲みそうになる。
「その前に訓練所だな。ほれ、渡すぞ」
シュカから受け取ったのはダガー・Nアーマーだった。
「いいの?」
「いいからさっさと卒業して来い」
「あい!」
装備を固めると訓練所へと足を向ける。
誰もが通る道。まだLv1である自分にはとてつもなく恐ろしい場所の様に感じた。
だが、恐れてはいられない。
シュカが、おーりが、弓彦が待っている。
うさびは勇気を奮い起こして訓練所のドアを開けた。
 

 

「第7章」

数日が過ぎた頃うさびは、いや、今は孫尚香♪でしかほとんど活動していなかった。
資金稼ぎのために湿原でオークを倒してはラウンドシールドを盾屋に売る。
これが250Rもするので、結構いい資金になっていた。
裁縫をするにはまず、お金がかかる。
カバン一杯に布を持って作成するらしい。
そのためには7000R近くの資金が必要だそうだ。
また、バザー用に洋服をためるなら倉庫を利用しなければならない。
そのためには1000R必要であり、これが案外痛い出費だった。

Lvが18になった頃、孫尚香♪として初めて裁縫ギルドへと足を向けた。
裁縫マスターと会うことも今日が初めて。
剣闘士マスターには何度もお世話になってきたが。
らしくない緊張をしていた。
「よろしくお願いします」
白髪に丈の長い服を身にまとった裁縫マスターが思ったよりも低い声で語りかける。
「何を望みますか?」
「裁縫スキルの挑戦を」
「よろしい。では、祈りなさい・・・・」
裁縫スキルに手をかける。
”せめて8になりますように・・・”
持っていた玉をすべて注ぎこむつもりでいた。
【スキルアップ成功!】
何度かその文字を目にした。玉はすべて使い尽くしたが
【レベルが足りません】
と表示されるまで上げる事ができた。
「ありがとうございました!」
裁縫マスターはただ穏やかに微笑んでいた。

倉庫へ立ち寄ると、持っていた対サソリ戦用の解毒や対ハーピー戦用の特効薬を
倉庫へ預けた。装備していた武器もすべて外し、ほうりこむ。
箱に鍵をかけた後で、チャットリングまでもなおしてしまったことに気がつく。
「はぁ;あふぉだな・・・・」
つぶやきながら人で溢れかえる倉庫を後にした。
雑貨屋に入ると、布を買った。
「随分と時間がかかるんだな・・・・」
そう思った。周りには同じように布を買う裁縫士で一杯だった。
フッと目をやると、隅っこの方に赤いロイヤルリベット・・・・。
おーりだった。
声をかけたくなる。だが、今はできない。
自分がマントを作れるようになってから声をかけるつもりでいた。
カバン一杯に布を入れて裁縫ギルドへと向う。
初めての裁縫。
何か自分に作り出せるのだろうか。
期待と不安・・・。
それだけが心を占めていた。
裁縫マスターに話し掛けて裁縫をすることの了承を得る。
ドキドキしながら布を1枚づつ丁寧に織り上げた。
どれぐらいの時間が過ぎただろう。
カバンの中にはマントが5枚ほど入れられていた。
妙な感動が沸きあがる。
誰かに伝えたい。そう思った。
チャットリングを倉庫になおしていたことを思い出し、倉庫へと向った。
「はぁ・・・1000Rもったいない・・・・;;」
そう思いながら、箱の鍵を取り出す。
チャットリングを箱からだし、マントを入れた。
図書館へと向かってチャットリングを装備する。
検索の窓を開き、名前を打ちこんだ。
【シュカ】
検索の呪文が唱えられ、サイエフ平原にいることを確認する。
”シュカ、パゴールに来る用事ある?”
”ああ、そろそろ耐久がきれそうなんでラス行こうかと思ってた。
パゴまで行くよ”
”あい”
チャリンを済ますと、シュカが来るまで中央の掲示板へと足を向けた。

「あ・・・・・・・・・。」
掲示板の左側に、ある人物を見かけた。
ピュア染めのヒップホップに手にはダガーをなぜか持っていた。
「惨事のあなたさんだ・・・・」
声をかけようか、とても迷った。
自分のことなど知りもしないはず。ましてや今は孫尚香♪でいるので
余計わかるはずもない。
隣りにそっと並んでみた。
真剣な表情で、でも時折笑顔になりながら掲示板に集中している。
その表情を見ているだけでこちらまでつられて笑いそうになる。
”まずいまずいw変な人だと思われちゃう・・・・・w”
「おい、うさびー」
シュカがいきなり声をかけてきた。
「あ、わりぃ。孫か」
「シュ、シュカ;;」
ふと、惨事のあなたさんがこちらに目を向けたような気がした。
「あっちいこ;;」
シュカを引っ張って図書館へと向かった。
図書館へと着くと、奥の本棚の所でドサッと腰を据える。
「んで、何か用か?」
「あ、それなんだけど。これ見て」
カバンからマントを取り出し、シュカのカバンへ突っ込んだ。
「お!できたのか」
「うん。まだ5着だけどね」
「へぇ・・・・」
シュカがマントの隅々まで目を這わせる。
「ちょ、ちょっと!あんまり見ないでよ;;」
シュカがうさびを見つめた。
そして、珍しくふと笑顔になる。
「よくできてるよ・・・・・。頑張ったな」
その一言で涙腺が一気に緩んだ。涙がぶわぁっと溢れ出す。
「バカw泣くな。褒めたんだろ?」
「うん、うん・・・・」
裁縫士のスキルを持ちながら裁縫できないうさび・・・・・。
一生こんな言葉を誰かからもらえるとは思ってもいなかった。
分離しているとはいえ、自分に違いはない。
どこかで何かが報われた様な気がした。心がふっ・・・・と軽くなる。
「これ、もらってくれる・・・?」
「女物だぞ?w」
「うん、うちの初めての作品だよ。シュカに貰って欲しい」
「ん。。。。じゃ、ありがたく」
「もしも誰か必要な人がいたらあげて」
「そうだな。わかったよ」
シュカは腰を上げるとマントを肩に無造作にかけて図書館から出ていった。
「さぁ・・・・頑張るぞ!!」
何か少しの自信がついたような気がする。
図書館を出た時、赤いロイヤルリベットが目に入った。
足が自然と早くなる。
あと10歩、あと7歩、あと・・・・・・。
「おーりぃ!」
声をかける自分に迷いや戸惑いなど、もうなかった。
 

 

次作品へ、乞うご期待
「ごめんなさい!快くお名前を使わせくださった友達にみんなに・・・・・・・
感謝!感謝!ですっ♪ありがとぉ!!(*^-^)」