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スウェインのサブストーリー |
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| 「序章」 |
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神と悪魔の住まいし、温かくも冷たき大地。 数々の戦乱と激動を経て、全てが荒廃の一途をたどる大陸。 人と魔物が相争う、光なき混沌と深淵の螺旋。 ガディウス・ワールド。 神の背に作られしこの世界は、その神話の由来をもって、いつしかそう呼ばれた。 そう、それは天空と大地がともに朱く染まっていた頃。 いつ明けるとも知れぬ深い闇と暗黒の中で、光明と光芒を心から求めた力なき人々は、 大陸史の最も灼熱した渦の中にいた。 されば紡がん。 |
| 「第1章 旅立」 |
人々が踊り、叫んでいる。その輪の中央では赤々とした炎が、時折割れるような気持ちのいい音を響かせて、漆黒の星空にその片割れを吸い取られ続けている。 今日はスウェインの生まれた村の、年に一度の収穫祭だった。 この村には名前がない。東の民の国の国境沿い、首都の北西にある小さな小さな、そして変わった村だ。 「よう、スウェイン。なにしけた顔してやがる」 ……少し伸びてしまい、ややもすれば目にかかりそうな赤髪が、風の力を受けてかるくなびいた。神はこの風の行く末も生まれた場所も知っているのかな、とふと考えてしまう。風になりたい、などというのは傲慢だろうか。それとも無謀? スウェインにはわからない。ずっとわからないのかもしれない。ただ、風になれば自由に、好きな場所へと翔んでゆける。手の届かない場所を見上げて、悲しい想いをせずにすむ。スウェインはただ、そんな風になりたかった。 収穫祭そしてスウェインの送別会は、夜が終わり、東から朝日が頭を眠たげにのぞかせるまで続いたらしい。 「……やっと旅の決意が固まったか」 スウェイン、赤毛の戦士。彼はまず、南の街ラスランを目指して旅に出る。大陸を渡る風を感じるために。そして人を、無数の人を見るために。 |
| 「第2章 紀行」 |
山脈に三方を囲まれた、サンティホールという名の盆地。スウェインが決意とともに出立した村はそこにあった。そこからすぐ南の街ラスランに出るには、最短距離でも一度西の中央平原を迂回しなくてはならない。それは村の南、ラスランの北に広がる広大な湖のせいであったが、スウェインは湖を見て回れることの方が、そして旅がより長くなることの方が、むしろ嬉しそうであった。 「初めての旅だ……」 そうつぶやくうちにも自然と笑みがこぼれる。旅立ちにはあまり似つかわしくない季節。だんだんと寒さと乾燥が増してゆく気候。だがそれでも旅に出してくれた人たちに感謝しながら、赤毛の若者は旅行鞄を道連れに南へと歩いていた。 収穫の季節がもう終わりを迎え、周囲の風景はすでに冬支度を始めていた。 すこし早めの昼食をとりおわった後に、湖のほとりを、そのゆったりとした景観を楽しみながら歩く。遠くの水面にぷかぷかと、軽く浮き沈みしているように見えるのは、釣り人の小舟だろうか。足元をのぞき見ると、浮かんだ葉の隙間から魚の影がちらっとだけ目にはいった。右手の方でぴちゃんというかわいい水音が立って、水辺の蛙が二匹、元気よく飛び込んでいる。そのたびにふぞろいな形の葉っぱが、すべて同じように揺れていて、それが何気に微笑ましかった。白鳥でもいないかな、と探してみるがさすがにそうそう美しい景色にはお目にかかれない。ただ湖の印象的な静けさが、スウェインにはまるで揺り椅子の老人のように感じられて、湖から立ち去る時に彼はそっと小さく別れの挨拶をした……。
「うわあっ!!」 この大陸の戦争が始まったのは、伝説の物語るところによると実に幾千年もの昔だという。 その大陸のど真ん中にあるのが、この中央平原である。ベルクとタペリが武力衝突するとなると、まず真っ先に戦場となるのがここだ。東の国ベルクの前線都市であるラスランと、西の国タペリのおなじく前線都市であるディールとを直線で結ぶと、その間にはこのだだっぴろい平原が存在しているだけなのだから。 いつかジェイスは、スウェインにこう言っていた。 「……ジェイスさんもこんな戦争をみたことがあったのかな」 息を切らせながら、髪を乱しながら、スウェインはラスランの入り口付近まで走ってきた。後ろをうかがうと、朱をまとった影がまだ執拗に追いすがっている。逃げる限界を感じたか、それとも自分の戦士としての弱さに諦めたのか、スウェインはその場にぴたりと立ち止まってしまった。その目の前に血刀を掲げた黒装束がたどりつく。するとその時すこんと情けない音がして、ゆっくりとその狂気の使者は大地に倒れこんだ。その額に太い矢がはえている。思わず振りかえったスウェインは、石弓の照準を合わせたままの黒い鎧の人物を見つけた。 「……これが街かあ」 空は今日も、ただ晴れわたっている。その中で一つだけ、白鳥と見まがうばかりの白く可愛い雲が、青をまだらな水色に染めながら、ゆっくりと流れていく……。 |
| 「第3章 失望」 |
ラスランの街の入り口は小さな門になっていた。 ぐるっと西から南へ迂回する道が南からその門に飲みこまれ、街の中央通りへと姿を変える。その道を進んで、戦時には閉ざされるであろうその扉をくぐると、街のさまざまな風景が、我先にと目に飛び込んでくるかのようだ。 左の方には古くより人々の信仰の中心となってきたであろう教会が、きらびやかな装飾をまとってそこにあり、右を見ると街の行政をつかさどる役所の簡素な旗が、ちょうど吹いた風の中で大きくはためいていた。役所の方角には煙突付きの鍛冶屋もあって、その軒下ではとんかちが描かれた看板が風に揺られながらぶら下がっている。 そこからさらに街中に入るとその左手に、いくつも同じような顔を並べた商店街が見てとれた。手前から順番に、武器屋、鎧屋、雑貨屋、盾屋。そしてその奥にはすこし古びた、だが風情のある酒場があって、その少し煤けた煙突からは夕食を作っているらしい煙がもくもくと上がっていた。酒場の主人も今頃は、これから押し寄せるであろう荒れくれ者たちを迎える準備に追われているのだろうか。 ……それらを横目で見ながら、根元が落ち葉でぎっしりの並木道を歩いてゆくと、十字路が交差している隣に、街のシンボルらしい大きな尖塔が現れた。街の外からでも唯一見えるであろうその高い塔のふもとは、少し開けた広場になっており、街の人々が使っているのだろう掲示板が、周りの喧騒とは正反対に静かにたたずんでいる。掲示板には様々な伝言や告知が貼られていて、いろんな想いを人々から人々へ、ただ黙って伝えつづけていた。 古びた羊皮紙に殴り書きされた「傭兵募集」の大きな文字が見える。それをぺらりとめくってみるとその下には、市場の開催の告知が記された大きな紙が貼られていた。日時は昨日の夕方付け。赤字でその上に大きく「完売」と書かれたのを見て、スウェインは不覚にもくすりと笑ってしまった。 とその時、不意に後ろから誰かが通りすぎるのを感じる。慌てて肩をすくめると、その頭の上を人の身長ほどもある大剣の柄が通りすぎた。その剣を背中に斜めに背負った大柄な剣士は相棒らしき魔術師と話をしながららしく、こちらに気づかずに去ってゆく。すこし苦笑しながらそれを見ていたスウェインの足元に、まだらぶちの猫がつつと寄ってきて、ひとしきり若者の顔を眺めたあと、にゃあと一声鳴いてどこかへ行ってしまった。 「たはは、猫にも田舎者と思われたかな……無理ないか」 思わず頭をぽりぽりと掻く。そしてまたずれかけていた鞄をかけなおして、赤毛の若者は人の過密しているその広場を見渡した。 「ええっと……」 右からも、左からも、押し寄せてくるのは人の声の波。意味ある言葉が密集して、意味なき雑音と喧騒へと姿を変え、それらは田舎から出てきたばかりの若者の耳と心を乱打する。もみくちゃにされそうな人ごみの中で時折響く、酒が入った大声。はっきりと聞き取れる、母親を探す迷子の泣き声。そんな声の群れと、その同数の人の群れに圧倒されながら、スウェインは一つ小さなため息をはくと、静かに独語した。 「……ちょっと……騒がしいかな」 中央の掲示板前の騒音だらけの空間から、さらに北へとぶらつくように、いや音の波から逃げるように、旅疲れた足を伸ばしてみる。そこでは街並みがだんだんと寂れた感じを漂わせ、少し傾きかけた倉庫や一般の民家が広い空間の中にゆったりと存在していた。さっきまでの騒々しさが、まるでぷつんと音を立てて途切れたようだった。 足の赴くまま。風が吹くまま。ぶらりと歩いていたら、戻ってきたのは先ほど通った、掲示板のある中央広場。相も変わらず盛況なその空間に、都市自体に慣れないスウェインはすこし頭を振って、そのあとで改めて広場を見渡してみた。 ……だがスウェインは、街での人々の営みを見て、愕然とした。話にしか聞いたことのなかった街は、スウェインの胸に満ちた期待を裏切っていたのだ。 「あ、あの……」 人を見るってどういうことなんだろう、とスウェインは思う。人の何を見るべきなのか、人の何を見なきゃならないのか。 「……ジェイスさんのうそつき」 |
| 「第4章 邂逅」 |
「そんなところで何してるんだい?」 スウェインはふと呼び止められた。いや、スウェインが街中で不自然に立ち止まっているところに向こうから歩いてきたのだから、呼びかけられた、と言ったほうが正確かもしれない。すこし気障がかった、でも含みや嫌味は一切感じ取れない口調。思わず見つめた声の主は、自分より四、五歳は年上であろう長髪の青年であった。額のところで左右に綺麗に分けられた、首までかかるようなその長髪の色は、自分と同じく燃えるような赤。 「あ……えっと、その……」 「ん?」 「あ、いや、ただなんとなく空を……空を見てました」 それを聞いてその青年はくすりと笑った。やっぱり笑う時も心持ち気障っぽい。だが反感は不思議と覚えなかった。 「いい人だね」 「……は?」 「知り合いが言ってたよ。『何気なく空を見上げれる人は、空みたいに澄みきったいい人だ』ってね」 「え、えっと……」 立て続けに言われて、なんと返事をしていいか分からず思わずどもる。とその青年は、そんなこちらの気持ちとは関係なく、聞いてきた。 「で、なんで空を見ていたんだい?」 「それが……この街来たところなんですよ……なのでいろいろとよく分からなくて……」 「ああ、なるほど」 ぽんと手を叩くように頷くと、その青年は誘いをかけてきた。 「じゃあさ、暇だし、ちょっといいかな? 僕もいろいろ話を聞いてみたくなったし」 「話……ですか?」 「僕、この街にずっといるからね。外の世界の話とか、聞いてみたいんだ。君がどこから来たのか、何を見てきたのか……そしてなんでそんなに悩んでいるのか。僕でよかったら話し相手になるよ」 彼は指でぴっと街の一画を指し示した。もう時刻は、さしせまった夕方。そしてその指の先では昼にも見かけた酒場が、窓から明かりをはみ出させながら、やはり古びた姿を街の人に見せつけていた。 酒場のカウンターの、出口から一番遠い隅。そこに肩を並べて、赤毛の若者二人は夕食をとっていた。軽めのパスタやサラダがテーブルに並んでいる。青年の注文、そしておごりであった。さらに赤ワインのグラスが二つ。かたっぽは全然口がつけられていない。スウェインがさすがにワインまでは、と遠慮したらしい。 「あ、そう言えば、訓練所にはもう行った?」 ……結局素振りは一度もしなかった。そのまま街の宿屋に泊まりこんだその夜は、ただベッドの上に寝転がって、鞘からも抜かずにその短剣を、掲げた右手で握りしめていただけであった。 |
| 「第5章 希望」 |
「どうしてここまで手伝ってくれるんです?」 「うーん……言うのは難しいね」 ラスランの訓練所にて。スウェインはラキラスの見守る中、戦士としての技量を磨いていた。 そこは訓練所とは名ばかりの、怪物たちの跳梁する処。ラキラスに言わせると「まあ……実戦が腕を鍛えるには一番いいと誰かが思ったからじゃないかな」との答えである。念の為街へと続く出入り口には衛士が立っているものの、それ以外はまさに街の外と変わらない戦いの地であった。 「一言で言えば、そうだねえ……」 と、少しばかり上を見上げて答える。 「なんか、さみしそうだったから、かな?」 「……ありがとうございます」 「ほら、そんなこと言ってる暇があったら訓練訓練っ」 「は、はいっ」 訓練所の怪物は数種族。その中でも最弱と言われるゼリー状の生物、スライムでさえも、スウェインにとっては強敵だった。後に片手剣を愛用することになるこの若者は、今はラキラスからもらった短剣をふるっている。 手先は器用なのだが、元来争いごとに向いていないのか、それとも単におっちょこちょいなだけなのか、スウェインの技量は戦士の部族にしてはお粗末であった。また生まれつきの体の弱さも悪い方に影響している。少し離れた隣でスウェインより遅れて訓練しはじめた黒髪の少年のほうが、いまや明らかに強そうであった。 「……」 「……僕、見込みないですか?」 不安げな顔をしたスウェインに、心持ち目をそらしながらラキラスは、「とにかくがんばれっ」と声をかけただけであった。 思い出したのは、旅立ち、朝日、そして赤い髪。 「ところでラキラスさんは、やっぱ戦士なんですか?」 思い知ったのは、戦争、悲しみ、そして赤い血。 湿原での狩り。ラキラスの監督のおかげか、スウェインの技量はすこしは上達したようではあった。……天性の才能を持つ戦士ほどは望むべくもないにせよ。 思い起したのは、街、人々の声、そして赤い空。 ……若者は、いままで旅をしたことがなかった。 最後に。 次の日の朝は、より太陽が輝いて見えた。今日はラキラスは用事でいないらしい。朝だというのにもう動き回っている宿屋の主人を横目に見ながらスウェインは、宿屋の入り口をくぐりながら思わずひとりごちた。 −少し分かったような気がします、ジェイスさん− 首を少し上に傾けると、先日見かけたかもしれない鳥がくるりと中空を舞っていた。空の中では冬だというのに暖かそうな風が、太陽の熱気を人々に伝えるべく飛びまわっている。その太陽はというと、おもわず手を目の前にかざしてしまうほど力強い。そしてかさかさと音を立てて、破れかけた木の葉が数枚、足元を転がっていった。 |
| 次作品へ、乞うご期待 第1部やっと完結ぽいです(汗) 次から第2部突入……の予定w てかやっと訓練所卒業してたりww |