夢幻さんの
サブストーリー
〜ガディウス幻想録〜

 

Prologue 第1章 第2章 第3章<new>  

 

Prologue

繰り返される死、繰り返される生。
それは、表裏が一体となった、無限に続くメビウスの輪。
その輪廻の輪より外れし者ども、魔物。
彼等は人々に憎しみと悲しみを与え、それらと糧とし、増えつづける。
「ワタシ」に出来るのはそんな世界を垣間見ることだけ。
ならば「ワタシ」はかたろう、虚ろな世界の物語を。
それは、未来の予言か、もしくは、過去の伝承か。
それは、まだ白紙の世界。
だが、物語は紡がれてゆく。
「ワタシ」は、そのために存在しているのだ。
 

 

第1章

私の名はユパ・ミラルダ。
その日の早朝、私はラスランの南、ラムパスの地を一人歩いていた。
目的はただ一つ、憎い魔物をこの手で殺す。
ただそれだけだ。
これほどまでに奴等を憎むようになったのは何時からだろう?
かれこれ十年も前になる。
私の妹、アリーシアとその夫ジル、姪のティナを乗せた幌馬車隊がサンティホールの盆地でグリフォンの群れに襲われ、ジルとアリーシアの体の一部が見つかり、孫のティナは、遺品は見つからなかったものの、行方不明。

それから数年、失意にうちひしがれていた私は、何もかもがイヤになっていた。
もう、すべてがどうでもいい様に思えた。
実際、自分の「生」さえどうでもよかった。
そんなある日、近所に住んでいる若い夫婦の一人娘が同じく魔物に襲われ、死んだ。
すべてを拒絶し、町の人々ともほとんど言葉を交わすことのなかった私にも、よく話しかけてくる、大きな目と、小さいポニーテールが自慢の、かわいい少女だった。
コウアトルに襲われたらしく、その強靭な筋肉で絞めつけられた幼い少女の体は、無残にもひしゃげ、ほとんど人間の形をとどめていなかった。

三日後、少女の両親が同じくサイエフで見つかった。
少女の仇を取りに行ったのだろう。
物言わぬ骸と化した彼等の手には、いまだしっかりと武器が握られており、その側には、一体のコウアトルが息絶えていたとゆう。
自ら命を犠牲にしてまで、娘の仇をとって死んでいった両親の顔は・・・笑っていた。
彼等は文字通り、命を賭け、娘の無念を晴らし、満足して死んでいったのだ。
だが、それに比べ私はどうだ?
殺された者達の無念も忘れ、ただ自らを襲う苦しみから逃れようと毎日酒に溺れ、惰眠を貪っていただけだ。
私は、殺された妹夫婦と、大きな目の少女、その両親に・・・・いや、魔物に殺され、強引に人生の幕を閉じた者、魔物に大切な人を奪われ、失意と言う名の奈落に突き落とされた、
全ての人々に誓った。
この命が続く限り、奴等を殺す、殺しつづける、と。
幸い、私にはもう、失う物は何も無い。
私が死んだところで、悲しむ物もいないだろう。

それから数年、私はただひたすらに魔物どもを殺しつづけてきた。
おそらく、それはこれからも続くだろう。
そう、私の復讐が終わる時、それは、私の命の火が、奈落の底へと呑まれる時だ。
私にとって、太陽の光りは希望ではない。
光り輝く朝日、それは手にする剣の輝き。
赤く燃える夕日、それは魔物の血と、我が心を焼き尽くす復讐の炎、そして・・夜の闇は、私の心に空いた、穴そのもの・・・。

 

第2章

うっそうと繁る木々、そこいら中から聞こえてくるグリフォンの雄叫び、私はいつものようにサイエフ平原へとやってきていた。
町からは比較的離れた場所にあるとはいえ、その魔物の多さは洞窟にもひけをとらないだろう。
私は、いつものようにバジリスクを、トロルを、ミノタウロスを次々と斬っていった。
やがて、あたりに夜の帳が降り始め、すべての景色が紫に染まり始めた。
その日、一日中魔物と戦いつづけ、かなりいたんだ装備に油を塗る。
最近になってすこし値上がりしたようだが、それでも鍛冶屋に修理に出すよりは早いし、安上がりだ。
ふと、目を閉じる・・・。
視界を闇が覆い、まるで、何も無い空間を自分が漂っているような感覚が、体を包みこむ。
視界が遮られる分、他の感覚が研ぎ澄まされていくのが分かる・・・。
虫のさえずり、鳥たちの歌声、森の隅々へと・・・神経の糸が・・・張り巡らされてゆく・・・。
不意に、張り巡らされた神経に触れる物があった。
目を開き、傍らの剣と盾を構える。
・・・グリフォンだ。
おそらく、このサイエフで最も恐れられる魔物、そして、私からすべてを奪った者・・・。
いつもならば、ためらう事無く斬りかかるところだが、今回はそうはいかなかった。
大きい。
通常のグリフォンよりも二周りは大きなソイツは私への敵意を向きだしにしてこちらを睨んでいる。
奴は、明らかに私を殺そうとしている。
逃げたとしても、グリフォンの背に生える翼からは逃れられない。
ならば・・・・・・。
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
気合と共に一気に奴との間合いを詰め、その心臓を狙う!
たとえ、どんな強敵だとしても、心臓を貫かれて生きていられる生き物はこの世に存在しない。
が、私の一撃は、奴の強靭は爪に阻まれ、目的を達し得ない。
そこへすかさず奴のクチバシが、今度は私の心臓を狙い、突進してくる。
ガッ!
危ういところを盾でなんとかしのぎ、再び距離をとる。
呼吸を整え、ゆっくりと向こうの様子を伺いつつ、足を横へ運ぶ・・・。
コッ・・・。
何かが足にふれ、
「キィィ・・・」
とゆう鳴き声か聞こえた。
瞬間、これまで慎重にこちらを伺っていたグリフォンが猛然と突っ込んでくる!
「・・・・・・・・・っ!」
考えている暇はない、咄嗟に私はあお向けに倒れこみ、鋭いクチバシと爪をしのぐ、そして置きあがりざまに奴の腹部へ深深と剣と突き立てる。
そして勢いに任せ、そのまま尾方向へ一気に切り裂く!
瞬時にして、生物から単なる有機物の固まりへと変化したソレは、鈍い音と共に地面へと落下し、動かなくなった。
ソレが完全に生命活動を停止したのを十分に確認した私は、さっき足にあたった、何かを探してみる。
グリフォンの突然の行動が妙に不自然に思えたからだ。
ソレはすぐに見つかった。
巣・・・であった。
そして、その中には生まれてまだ間もないグリフォンの幼生の姿があった。
なるほど、奴はこの幼生を守ろうとしたわけだ。
私はおもむろに立ち上がると、手にした剣をその幼生へと突き立てた。
か細い鳴き声と共に、幼生はすぐに動かなくなる。
どの道、親をなくした幼生は遠からず命を落す。
なにより、万が一、この幼生が生き延びた場合、こんどは人間が命を落す事になるのだ。
満月の蒼白い光の中、愛用のバスタードソードが赤く濡れていた…。

翌日、いつもの様に平原を歩いていると、何時の間にか昨日の場所へやってきていた。
あの二匹は影も形もない、おそらく、ほかの魔物に骨までも食べ尽くされたのだろう。
が…。
そこには、もう一匹の幼生がいた。
昨日は暗がりに隠れていて見落としたのだろうか。
まぁいい、どちらにしろ、私のとる行動に変わりはない。
昨日と同じように剣を振り上げる。
「だめぇぇぇぇぇっ!」
ゴバァッ!
轟音と共に炎の塊が私をかすめる!
「何者だっ!」
態勢を立て直し、ファイアミサイルの飛んできた方向へと視線を走らす。
そこには・・・
「その子になにをする気ですかっ!」
魔力が周囲に発せられているせいか、青いマントをたなびかせ、必死の形相でこちらを睨んでいる少女が立っていた。
「・・・・・・何を、だと?決まっているだろう」
「決まってって・・・相手は、まだ生まれたばかりの赤ん坊なんですよっ!」
「それがどうした、ほおっておけば今度はコイツが人間を殺す、将来の不安は芽の内に摘み取るべきだろう」
「そんなこと、私がゆるしませんっ」
「ならばどうする」
「・・・・・・・・・・・・っ」
少女が返答に窮していると、奥から声が聞こえてきた。
「夢希〜、どこいった〜」
「夢希く〜ん」
やがて、声の主たちが姿をあらわす。
「ああ、こんな所にいたのか」
「勝手にふらふらするから迷うのよ」
「いえ、あの、ちがうんです」
「ん、そちらの方は?」
胴着に身を包んだ角刈りの男が私へと視線を向ける。
「明影さん、実は・・・」
夢希と呼ばれた少女はこれまでの事を手短に3人に伝える。
「なるほど、そう言う事か・・・、え、と、貴方のお名前は・・・」
「ユパだ、ユパ・ミラルダ」
「ユパさん、どうでしょう、ここは私に免じて、その子を渡してくれませんか?」
「断る」
「しかし・・・」
「ああ、もぅっ、じれったいね!明影、ちょっとどいてて!」
後ろに立っていた女が明影と呼ばれた男を押しのける。
「ゆ、由紀君、あまり手荒いことは・・・」
「あきらめろ、明影、由紀に『穏便』って言葉は通用しないって」
「なんか言ったかい?豪鬼」
「いや、なんでも」
「とにかく、おっさん、その子はなんとしてでもこっちに渡してもらうよ」
「いやだ、と言ったら?」
「力ずくで行かせてもらうわ」
「そうか・・・だが、そっちが踏みこんでくるより早く、コイツの首をはねることなど、造作もない事だ」
「・・・やってみな」
「いいだろうっ!」
剣を振り上げ、そのまま一気に振り下ろす。
が、
ギィンッ!
彼女が握っていたナーガブレイドが私の剣を弾く。
「ちっ」
そのままの態勢で腰の短剣を引きぬくが、
「そのまま、おとなしくしていてください、手荒な真似はしたくないんです」
すでに、私の眼前にはゴーレムの皮を使って作られたフィストが突きつけられていた。
早い。
あそこから、ここまで、ゆうに10mはあるはずだ。
この距離を一瞬で詰めるとは・・・。
短剣を持つ手に力がこもる。
「おっと、おかしな事はするなよ」
背中に刃物の先が押し当てられる。
パタとゆう名の武器だ。
この男(豪鬼といったか)、後ろに周るまで、私のまったく気配を感じさせなかった。
「・・・・・・・・く、わかった、貴様たちに渡そう」
「ご理解いただき、感謝します。ユパさん」
その日、私は初めて魔物を見逃した。
完全な、私の敗北であった・・・。

 

第3章

日はすでに沈み、あたりを闇がつつむころ、ラスランの一角、酒場「焔」は、昼間とは比べ物にならないほどの活気に包まれる。
男はうまい酒と、美人を求め、女は男の甘美な口説き文句に耳を傾ける、ある者は自らの武勇伝をとうとうと語り、またある者は、今日、命をおとした友への盃をあける。
あの日からすでに三日、彼らは、なぜあの時私の邪魔をしたのだろうか…。
特にグリフォンの幼生を命がけで守ろうとした、あの少女。
夢希…といっただろうか。
なぜ、我々人間種にとって、脅威以外なにものでもない魔物をかばうのか。
私には、到底理解できる物ではなかった。
そして、彼女と一緒にいた、あの三人。
彼らが只者でないことは、あの体さばきからも明らかだ。
特に、私との距離を一瞬にして詰め、有無をいわさぬ威圧感を持っていたあの男・・・。
名前は、たしか・・・・・・。
「あ、明影!こっちこっちぃ!」
そう、あの男の名は明影・・・・・・。
「・・・っ!?」
咄嗟に後ろを振り向く。
そこには、
「いやぁ、ごめんごめんw」
仲間の呼びかけに笑顔で応じる明影の姿、そして・・・
「すいませんっ!おくれましたぁぁぁっ」
慌てて店にかけこんで来るあの少女の姿があった。
「大丈夫、僕も今きたところだから」
「ボス、偉そうに言える事じゃないよw」
「まぁまぁ」
・・・・・・・・・・。
おそらく全員がギルドの仲間なのだろう、和気あいあいとしている姿が、なんとも羨ましく思えた・・・。
もう、何年も心から笑っていない・・・。
すでに捨てたと思っていた感情が沸きあがってくる事に、私は少々驚いた。
久しぶりに感じる、人間らしい感情に浸りながら、ほろほろと酒を呑む。
しばらくそうしていただろうか、突然、
「あれ?ユパさんじゃないですか」
「む?」
突然の予期せぬ問いかけに、思わず返事を返してしまった。
明影の周りにいる全員がこちらに視線を向けている。
その中には、あの少女・・・夢希の、どこか幼さと、私への畏怖の念のこもった視線もあった。
「ほら、このあいだサイエフであった・・・」
「憶えている、あの時の胴着の男だろう」
「ええ、憶えてくれてたんですか」
「ああ、あの時のグリフォンは元気か?」
酒の席で無粋な真似はしたくはなかったが、思わず皮肉が口をついて出る。
自分でも少し声が引きつっているのが分かる。
「今は、その話はよしましょう、ここは酒場です。楽しくやりませんか?」
「・・・・・・・よかろう」
その晩、私は久方ぶりに多くの言葉を語り、また聞いた。
「あー、先生、そのから揚げ俺のじゃねぇか!」
「早い者勝ちですよ、豪鬼クンw」
「そうですよ、あ、初葉さん、そこのスープとってください」
「えー、またぁ?深黒くんさっきからこればっかり食べてない?」
「そういえば、深黒ってバジリスクのスープ好きだったな」
「そう言うぎゅいさんも、さっきからミノタウロスのステーキばかり食べてないですか?」
「う・・・・・・・w」
これほどに賑やかな酒席は、一体何年ぶりになるだろうか。
彼等の会話がとても暖かく、そして、とても・・・・・・羨ましかった。
もし、弟夫婦があんな事にならなければ、今の私は、彼等のように笑っていられたのだろうか・・・。
そんな感傷が、ふと、頭によぎった。
「にゃーーーーーーーーーーー♪」
カプッ!
「ん?」
二の腕のあたりに感じる、微かな刺激に、ほと視線を移す。
「あ、こらこらスゥ、ユパさん噛んじゃだめだって…」
「おい、由紀、ま〜たスゥに酒飲ましただろ。またスゥの噛み癖がでてるぞ」
「いいじゃない、お酒は女を魅力的にするのよ」
・・・どうゆう理屈だ。
「ほ、ほんとですか、由紀さん」
・・・信じるのか。
「おいおい夢希君、君まだ、未成年だろ?」
「わかってないわね明影は、女の子ってのは、早く女になりたいものなのよ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
久しぶりに大勢で呑んだせいか、些か呑みすぎたらしい。
酔いを冷ます為に夜風にあたっていると、背後から声がかけられる。
「酔い覚ましですか?」
「ああ・・・今夜は些か呑みすぎたようだ」
いつの間に店から出てきたのか、彼・・・、明影が一人でたっていた
「・・・・・・一つ、聞いてもかまいませんか?」
「なんだ?」
「昨日の、サイエフでの事です。なぜ、あんな小さな赤ん坊まで殺そうと?」
「・・・・・未来の脅威は、小さいうちに取り除いておいたほうがいい」
「嘘・・・ですね」
「なぜそう思う?」
「昨日のあの時のあなたは普通じゃなかった。まるで、なにかに憑かれたようでした」
「・・・・・・・・・・」
「ユパさん」
「なんだ?」
「もしよかったら、私たちにギルドに入りませんか」
「なに!?」
「あなたがなぜ、それほど魔物を憎むのかは知りませんが、憎悪は自分の中に苦しみしか生み出しません。どうです?私たちのギルドに入って、もう少し楽しんで生きてみませんか」
思いもかけない、ギルドへの勧誘だった。
今までギルドなど考えた事などなかったし、正直、うれしかった。
だが・・・。
「その言葉には感謝するが、私はギルドに入るわけにはいかない」
「どうしてです?」
「私は・・・貴様達と楽しむには、少し歳をとり過ぎた・・・それに、あの夢希とかいったか、彼女にかなり嫌われているようだ。わざわざ事を荒立てるような真似はしたくない」
それを聞いた明影は、なんだ、そんな事ですか。とでも言うように平然と口を開いた。
「歳は別に関係ありませんよ、それに・・・」
「それに?」
「あなたを誘おうと言い出したのは、夢希君です」
「なに?」
「何かに憑かれたように魔物を狩るあなたを、可哀想だって言ってましたよ。全部魔物が悪いわけじゃないのにって」
「私が・・・・・可哀想だと・・・?」
「可哀想」、その言葉を聞いた瞬間、私の中で、何かが変わった。
「明影・・・・・」
「はい」
「ギルドへの入団の話し・・・受けよう」
「・・・・・ようこそ、我らがニャンコの絆へ」
ニャンコの絆、彼等との出会いが、その後の私の運命を決めた。
 

 

へえぇーーー